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痛みとは
痛みの定義として、実質的な損傷だけではなく、不快な感覚や情動を含みます。
つまり、どこかの場所を痛めているというだけでなく、末梢から中枢へ伝わるルートや脳内の痛みに関わるネットワーク、さらに過去の経験や情動すべてが組み合わさり痛みとして感じています。
ですので組織損傷がない場合でも痛みを感じることがあり、慢性疼痛になると組織の損傷だけが問題ではないと考えられます。
痛みの伝導路
1.組織に刺激が加わる…機械的刺激、科学的刺激、熱刺激などがそれぞれ、侵害受容器、化学的受容器、温冷受容器を反応させる
2.末梢神経…受容器から末梢神経を伝わり脊髄へ
3.脊髄…脊髄を上行し脳へ
4.脳…広く脳内に伝わる。体性感覚野、前帯状回、島皮質、偏桃体、運動野、側坐核、前頭前野
5.痛みとして感じる
脳内では広く情報が伝わり
・体性感覚野…痛みの場所、時間、強さの感覚
・前部帯状皮質、島皮質…不快、嫌悪感など情動
・前頭部前野…痛いという認知
このような感覚に影響を与え、反対に情動や認知からも痛みに影響を与えています。
痛みの分類
痛みの分類として
・侵害受容性疼痛
・神経障害性疼痛
・Nociplastic Pain
というものがあり、それぞれ単独の場合もありますが、複合する場合もあります。
侵害受容性疼痛
どこかをたたくと痛いとか炎症があっての痛み、運動して出た代謝産物(ブラジキニン、セロトニン)による痛み、腸閉塞など内臓が引っ張られて痛い、というような末梢の侵害受容器に侵害刺激が入り、末梢神経を通じて感じる痛みです。
痛みは二種類の神経で伝えられ
・Aδ繊維…速く鋭い痛み
・C繊維…遅く鈍い痛み
となっています。
また、痛みは他の触圧刺激や温冷刺激と異なり、順応して感じなくなるということがありません。
これら末梢のセンサーでの痛みを抑制してくれるのがロキソニンなどのNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)といわれるものです。
神経障害性疼痛
これは侵害受容性疼痛と異なり、末梢受容器での侵害刺激は無く、そこより上の痛みを伝える通り道の部分、末梢神経や脊髄、脳の損傷や虚血によるものです。
脳血管障害、糖尿病、感染症、自己免疫疾患、などの原因がある場合があり、いわゆるアロディニアもこの病態です。
その障害部位により末梢神経侵害性疼痛、中枢神経障害性疼痛、と呼び方が変わります。
痛みの感覚も侵害受容性疼痛と異なることが多く、電気が走るような痛み、強い痺れ、灼熱感、鍼で刺された感じ、衣服や風が当たると痛い、痛い部分の感覚が低下や過敏になっている、というような場合が多いようです。
これらの痛みは我慢すると慢性化しやすいと言われていて、神経障害性疼痛治療薬などで痛みのコントロールをすることが大切です。
Nociplastic Pain
上記二つの痛みではない痛みです。
末梢にも神経にも損傷がないのに痛みが出る状態で、原因の説としては、疼痛抑制機能の低下、シナプス伝達効率の亢進、軸索の異所性投射などが言われています。
中枢性感作、末梢性感作
これはそれぞれ中枢(脳、脊髄)かもしくは末梢神経に問題があり、痛みを感じやすくなっている状態、を指します。
これが起きてしまう原因が、侵害刺激が断続的に加わること、です。
ですのでどこかを痛めて炎症が起き痛みがある場合は、炎症を長引かせないように注意したり、消炎鎮痛薬などで炎症や疼痛のコントロールをすることが大切と考えます。
筋肉の痛み
筋肉が痛い場合、筋肉にある様々な受容器の興奮が関与しています
・機械受容器…メカニカルストレス、ねじれ、圧迫、牽引、収縮
・化学受容器…運動による組織損傷、代謝産物(ブラジキニン、セロトニン、ヒスタミン、プロスタグランジン)など
・温度受容器…過度な熱さ、冷たさは痛みとなる
・ポリモーダル受容器…上記全ての刺激に反応する
・非活動性受容器…よくわかっていない
自律神経と痛み
キャノンの緊急反応、汎適応症候群の学説というものがあり、詳しくは記しませんが、痛み(ストレス)が身体に加えられると一定の順序で生体は適応し、防御するようになっています。
これらの反応により、交感神経が優位になり、HPA系(視床下部ー下垂体ー副腎皮質系)という経路の活性化によりストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が促され、人間は痛み(ストレス)に対して抵抗力を挙げて身体の状態を一定の範囲内に保とうとします。
しかしその痛み(ストレス)が長期的になった場合、その自律神経系やHPA系の反応が反復的に活性化してしまい、その機能を正常に保つことができなくなります。
また迷走神経(副交感神経)は、抗炎症作用があるとされる神経伝達物質や、アセチルコリン、コルチゾールの分泌に関わっており、本来なら抑制されている炎症の制御が効かなくなっている可能性もあります。
これらの変化が痛み(ストレス)が慢性化することで起こり、自律神経系やストレスホルモンのバランスに乱れが生じ、身体の様々な不調につながる可能性があります。(詳しくは自律神経症状)
例えばですが、交感神経の興奮は、血管収縮、筋緊張増大、末梢循環の悪化、組織の酸欠や老廃物(発痛物質)の蓄積、という悪循環を生み、痛みが出る閾値を下げ、痛みを感じやすくするというものがあります。
また組織損傷した炎症部位には新生血管とともに交感神経が入り込み、他の感覚神経ともつながりを持ちます。
これらの理由により、痛みの長期化や、交感神経の亢進(ストレスや天気、睡眠不足等)時、痛みの増悪が起こります。
このような可能性がありますので、自律神経が適切に働くようにしていくことが痛みのコントロールにはとても大切です。
関連痛
これは原因部位から離れた場所で組織損傷していない所に痛みを感じている状態です。
例えば心臓の疾患で左手に痛みを感じる、といったものです。
これは脳が誤解をしている状態で、説としては、内臓痛を伝える感覚神経と関連痛を訴えている部位を支配する感覚神経が脊髄の同じ高さに入り、共通の脊髄内の神経に接続することで、脳が内臓痛を関連痛部位の痛みと勘違いしてしまうことによる、というものがあります。
代表的な関連痛
・心臓…左上肢、左背中
・糖尿病…肩の張り
・膵臓…腰、背中
・虫垂炎…みぞおち、腹部
・胃…左背部、腹部
・胆のう、肝臓…右肩、右肩甲骨周囲、腰背部、腹部
急性痛
基本的には組織損傷と発痛物質による痛みで、徐々に修復されます。
組織のおよその修復過程期間
・皮膚…2week
・筋…2week
・腱…6week
・骨…6week前後で仮骨形成(部位により異なる、大腿骨頸部は24weekで骨癒合)
この期間は栄養状態や年齢により異なります。
急性期にはなるべく痛みを出さないように、でも動かなすぎに気を付けて、患部以外は動かしてあげることで、感作による慢性疼痛への移行を防ぐようにしていくことが大切です。
慢性疼痛
世の中には肩こりや腰痛、膝痛など慢性疼痛でお悩みの方は多いと思います。
慢性の痛みは急性痛とは異なり、組織損傷だけが原因ではないと考えられています。
つまり組織が回復しているはずなのに痛いということです。
これは、痛いので過度に安静にすること(動かしているつもりでも動いていない場合もあります)、痛みと痛みに対する恐怖、治らないかもしれないというようなネガティブな感情、抑うつ、などを繰り返しているうちに、中枢性の感作や、受容器、末梢、中枢神経の可塑性変化が起きてしまうことが原因です。
こういった場合は受容器や神経の感度を変化させるような鍼灸整体や、痛くないように動く、ということから少しずつ始めていくことが大切です。
慢性疼痛ガイドラインでは
・健康的な食事と体重維持
・運動習慣
・大量のアルコールや喫煙など不健康な行動の排除
・様々な健康的姿勢での仕事と休息
・横隔膜を使った深呼吸によるストレス管理、楽しい活動への参加
・不必要なストレスのもとを減らす
・必要な時にはカウンセリングや心理、行動療法を受ける
などが良いとされ、エビデンス、推奨レベルともに高いものとして
・有酸素運動
・筋トレ
・ストレッチ
というものがあり、運動療法に比較してややエビデンス、推奨度ともに低いですが鍼灸施術も推奨されております。
痛い時の運動
今はYou tube などで多くの運動方法などが無料で見られると思います。
おそらくほとんどすべてのやり方が紹介されているのではないかと思います。
それらの情報が誰でも入手できる状態は素晴らしいことだと思いますし、チャレンジしてやってみた方が良いと思います。
ただ、それをやったけれど改善しないとか、やったら痛くなってしまったということもお聞きすることがありますので、そういう場合は注意が必要です。
おそらくその場合には、やる期間や回数、細かいやり方の違い、その解決方法がその方の痛みの原因とマッチしていない、又は逆に悪化の要因になっている、などの原因が考えられます。
それがなんでだろうと考えるためには少し専門的な知識が必要な場合もありますが、私は身体に関することは皆が知識として持っている方が良いと思っていますので、面倒でも生理学や解剖学、運動学の本などを読み、効果的な運動方法をご自身で探してみるのもいいんじゃないかなと思います。
そういう視点で考えてみたり、それでも難しければ一度専門家にみてもらうことをお勧めします。
痛みに関する先入観
・腰痛は体幹筋力の持久力と関係がない
・腰痛と姿勢は関係がない
・ストレートネックと首の痛みは関係がない
・膝の半月板損傷は加齢によるもので、損傷=痛み、ではない
これらのことが論文で示されています。
特に慢性疼痛における組織構造の破綻と痛みは必ずしも関連しません、姿勢が良くなったから痛くなくなったのでもありません、その過程で身体に刺激が入り、動かすことで神経系の変化を起こし、痛みが良くなっている、ということです。
当院で痛みに対して出来ること
・鍼灸整体による疼痛の抑制、関節可動域と筋バランスを整え、動くための土台を作る
・運動療法により、代償動作の改善、運動恐怖感を減らし、活動量を増やし、神経系の変化(感作による疼痛閾値低下の改善)を促す